■宿主の視点
01.情報を売る宿
02.情報軽視のツケ
03.情報こそ生命
04.提案とは?
05.提案してないじゃない!
06.やれやれ・・・・
07.頭でっかち
08.値切るということ
09.予約金問題
10.ルール
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情報軽視のツケ
お客さまの中には、情報不足であるがために悔しい思いや危険な思いをされた方がいらっしゃいます。例えば、この冬に一人旅の高校生がお泊まりになられたのですが、受付の時に「今回の目的は何ですか?」と聞いてみると「歩きに来た」とおっしゃいました。それではと、とっておきの散歩コースを説明したのですが、この高校生のお客さまは、一度も説明した散歩コースを歩きませんでした。その代わりに、2時間もかけて8キロもあるスキー場まで歩いてスキーをしにいってたのです。その事実を知ったとき、驚き呆れてものが言えませんでした。
「どうしてスキーが目的だと言わなかったんですか」
「・・・・」
「確かに、うちではスキー場までの送迎はやってませんが、他にスキー場まで無料で行く方法はあるんですよ」
「え?」
「スキー場が無料バスを出しているんです。それに格安のスキーチケットもあるんです。無料券もあったから、平日連泊の方にはプレゼントもしていたんですよ」
「・・・・」
「それにね、うちによくくるお客さまに、宿側が御願いして、スキー場まで乗せていてもらうことだって、全く不可能と言うことではないんです。ましてや高校生の一人旅なんですから、みんな親切にしてくれます。自慢じゃないですが、うちにお泊まりになるお客さまには、そういうお客さまが多いんです。旅は道ずれ世は情け、渡る世間にオニはなしっていうでしょう」
「・・・・」
「今後は、宿に正直に来訪目的を伝えた方がいいですよ。車がないとか、安く泊まりたいとか、そういう相談でも、何でもいいんです。宿というものは、単なる施設ではないんです。お客さまの旅のアドバイスや、お手伝いをするところであり、また、お客さまどうしが情報交換する場でもあるんです」
高校生は、いたく感動してくれ、その晩は、大勢のお客さまと一緒にお茶会を楽しまれました。そして、たくさんの、持ってきてくれたお菓子を差し入れしてくれました。私も、なんだか無性に嬉しくなって、佐渡産のイカやら、ケーキを出して御一緒しました。その晩は、本当に楽しいかった。
翌日、高校生は「また来ます」と言って家へ帰っていきました。私は「今度は何でも宿に相談するんだぞ」と言って浅間牧場まで送りました。
それにしても危ないところでした。もし、この高校生が、本当はスキー目的だったことを私が知らないままだったら、この高校生にとって、きっと味気ない旅で終わってしまっていたに違いありません。もし、そうなっていたら、一人の高校生の人生までも変えてしまっていた可能性があるのです。
これは私にも覚えがあることですが、初めての一人旅で淋しいまま終わるか人とのふれあいを体験するかで、旅に対するイメージや、人間の優しさに関する感度が180度違ってきます。私も、多くの人間に優しくされ親切にされ、旅をとおして大きな感動を手に入れた口です。だから、こうやって宿業をやっているし、宿業を通じて、大勢の旅人に感動をしてもらいたいと思っています。ベットだけを売りたくないのです。
と同時に私どものような小さな宿業者は、ベットだけを売っててはいけないのではないでしょうか? 大きなホテルならいざしらず、小さな宿泊施設には、旅人に感動を与えたり、旅人に適切な情報を伝える義務があると思います。でないと、全ての宿なんてものは、ベットだけを格安に大量販売するホテルと一緒なんだと勘違いされ、そういうイメージが全国に転がってしまいます。小さなアットホームな宿の存在が知られなくなり、ベット以外のものを販売しているという常識も少しずつ消えてしまうのです。 |