■旅人の視点
1.耳をすませば
2.個性だった?
3.アットホームの理由
4.強者の論理
5.旅人になるということ
6.八対二の法則
7.居場所
8.心の故郷
9.何をみつけるか? |
アットホームの理由今回は、私がアットホームにこだわる理由を述べたいと思います。
誰にも譲れないものがあると思いますが、私にとって何よりつらいことは、差別とか、仲間はずれとか、弱者が一人だけはじき出されることです。耳に障害があるために仕事につけなかったり、たとえついてね馬鹿扱いされた経験があるために私は、そういう事には人一倍敏感な人間になってしまいました。
でも旅先にでてみると、差別とか、仲間はずれとか、そういう浮世の悩みがほとんどありません。耳が悪いことも、まるでハンデにはなりません。海外旅行などでは、むしろプラスに働いたくらいです。英語が分からなくても、なんとなく相手の言いたいことがわかってしまうからです。文法を正確に理解して無くても、単語がわからなくても、なんとかなってしまう。耳が悪くて馬鹿にされるどころか、耳が悪いために、人より相手の意志をくみとることがたやすいのです。
そうなると旅にはまってしまいます。世界中を1年かけて放浪するようになり、そのうえ1000人もの旅人の友人を集め『風のたより』なる集まりをはじめたりし、あげくのはてにはペンションやユースゲストハウスを経営するまでになって、幸せをいっぱい生きているのですが、そんな幸な旅人の世界の中にいても、弱者が一人だけはじき出されるのを見てしまうと、ふつふつと怒りが込み上げ、やるせない気持ちで目の前が暗くなってしまうから不思議です。
弱者が一人だけはじき出されるのを見てしまうと悲しくなる。
これは私の個人的な事であり、ここに書くべきことではないかもしれません。でも、この個人的な感情に、この宿泊施設の経営方針が大きく影響されるわけですから、やはり書いておいた方がいいかなと思い直して、こうやって書いているわけです。ここから先は、私の身勝手な感想ということで、興味のない方は、読まないでいただければと思います。読まなくても、内容を知らなくてもお客さまには、何の問題はありません。単なる私個人の思い入れを述べるにすぎないからです。
前にも言いましたが、私は、耳が悪くて苦労したことがあります。耳が悪いのは、目が悪いのと違って、外見上ふつうの人間に見えます。だからまわりの人たちは普通の人として接してくるのですが、そうなると
「あいつ、俺の言葉を無視しやがった」
「あいつ、いつもボーっとしている」
「あいつ、頭がたりねえな」
という誤解が生まれます。そして仕事をクビになったり、必要以上怒られたり、仲間から一人だけはじき出されたりするのですが、そのつらい体験から逃れるために私は旅にでたわけで、そういうものを目の前で見たくないわけです。だから私どものペンションやユースゲストハウスで、そういう事がおきることは極力避けたいし、できれば、根絶させたいとまで思っているのです。
そのためには、アットホームな宿をめざしたいと思いました。一人旅の人が決して孤立することのないような、そういう宿をつりたいと思いました。だから常連のお客さまが、初めてくるお客さまをはじきだすというのも許せないし、団体客が一人旅を圧迫するというのも我慢がなりませんでした。
ですから、本当に無理して、もう1軒のペンションを買って、団体様と一人旅の方を分けるようにしましたし、常連のお客さまだけを特別扱いしないように気をつけたり、トップシーズンには常連さんが強くならないように、わざと談話室を作らなかったこともありました。 |