■旅人の視点
1.耳をすませば
2.個性だった?
3.アットホームの理由
4.強者の論理
5.旅人になるということ
6.八対二の法則
7.居場所
8.心の故郷
9.何をみつけるか? |
強者の論理 世の中には、強者と弱者が存在しています。強者とは、強い立場にいる人のことで、弱者とは、弱い立場にいる人のことです。クラブとかサークルとかいった組織において、一番の強者はリーダーです。そして、一番の弱者は新参者になります。どんな組織でも、昔からいる奴が強者ですし、新参者は弱者であることに違いはないと思います。
これを旅の宿にあてはめてみれば、リピーターの多いペンション・民宿・ユースホステルといった、アットホームな宿に多い常連客という存在は、当然のことながら強者になります。そして、初めてそこに泊まる者は弱者になるわけです。もし、あなたが常連客の多い宿に泊まった場合、そういう宿に生まれて初めて一人で泊まろうとする場合、私には、こんな情景が目に浮かんできます。
みんな常連客だ。
みんな知った顔、宿のオーナーとも親しいし、
仲よさそうに盛り上がっている。
でも新参者の私は、その中に入れない。
そういう場合のやりきれなさと言ったらありません。本当に嫌になってきます。というわけで、せっかくの楽しい旅も、宿で嫌な思いをしてしまってはだいなしです。特に小規模でアットホームな宿では、一緒に泊まっている御客さんしだいでずいぶん違うものです。
常連客が我がもの顔で幅をきかせ、知った顔としか話をせず、新参者の御客さんの一人が、その輪の中に入りこめなかった。そんな宿で貴方は楽しく旅の疲れを癒すことができますか? できませんよね。私たちが、一番気をつかいたいことは、こういったことで、嫌に思いをさせたくないことなのです。
人には誰にも譲れないものがあると思います。
私にとって何よりつらいことは、
弱者が一人だけはじき出されることです。
これは私の身勝手な個人的なことですが、
耳に障害があるために辛い思いをしたことのある私は、
弱者が一人だけはじき出されるのを見てしまうと、
ふつふつと怒りが込み上げてきたり、
とても嫌な気分になってしまう。
これもまあ、私の個人的なトラウマの一種みたいなものかもしれませんが、うちの宿では、仲間はずれのようなものだけは見たくない。だから、お客さまに対しては、必要以上おせっかいになることも時としては、あるのかもしれません。そのへんは注意するように心がけています。一人になりたいという、お客さまがいたら、できるだけ、そっとしてあげるのも大切なことだと思っております。というのは、人間、一人になりたいという時がかならずあるからです。
一人になる。
淋しいオフシーズンに訪れる。
こういう感覚は私には、とてもよく分かるのです。私も、そういう感覚で旅をしてた人間だからです。しかし、一人になるために旅にでて、とある宿に泊まったときに、もし、常連客に仲間はずれにされたら、いたく傷つくのです。
「どうせ一人になるために旅にでたんでしょ? 仲間はずれにされたっていいじゃない」
と言われれば、その通りなのですが、やはり、それとこれとは別問題なんですよね。疎外感を味わったという嫌な気分は残るわけです。一緒に飲みませんかと誘われたうえで、断って、一人になることを選択したのと、ちょっと違うんですよね。
選択の上でプライバシーを選ぶというのと、
最初から選択肢がなかったというのでは、
大きく違ってきています。
やはり選択肢はあったほうが気分がいいですね。
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