新緑の頃、お客さん達と一緒に、碓氷峠の「めがね橋」までハイキングに行きました。
こののめがね橋は、1892年に完成したレンガ造りアーチ式の鉄道橋で、日本では最大の物だそうです。当時は機関車が走っていましたが、現在は廃線となり、国重要文化財に指定されています。
横川駅からめがね橋までは、「アプトの道」というハイキングロードとしても整備されています。
途中、いくつもトンネルを抜けてゆきます。思った以上に狭いトンネルです。機関車の頭がつっかえなかったのかな?
新緑の緑が目に痛いほどですが、地面に目を落とすと、たくさんのかわいいスミレや、猛毒で有名なハシリドコロなども元気に日を浴びていました。
途中、赤い橋のがかかった湖がありました。湖の周りには桜が満開で、仙人でも立っていそうな風情です。そこには、碓氷湖の看板が紅葉のイラストが描いてあるところを見ると、秋もいいのでしょう。絵心があれば、とどめておきたい風景です。
碓氷湖の近くに、小さいログハウスがありました。どうやら手作り雑貨屋さんのようです。
こういう所に寄り道してしまうのは、女性の特権。とばかりに男性陣を置いてけぼりにして入ってみました。ログハウスの中には、木の実で作った人形や、アクセサリーなどが並べてありました。全てお店のお兄さんの手作りだそうで、
「カワイー」
を連発してしまいそうなものばかりです。個人的に気に入ってしまったのが、めがね橋のポストカード。めがね橋のふもとにさりげなくイノシシがいたり、ドングリの帽子をかぶったどんぐり鳥がいます。実際、この付近には野生のイノシシ、猿もいるのです。自然に囲まれて、自分の作品を作る生活をしているお兄さんは、なかなか良い顔をしていました。
ハイキングの途中にちょっと寄り道も良いのではないでしょうか。
そこから、30分ほど歩くと、お目当てのめがね橋にたどり着きます。道はめがね橋の上を通っているので、よくわからないのですが、橋の下におりると、その大きさに驚きます。新緑の山の間から見える煉瓦橋は風格十分です。
めがね橋には、ボランティアガイドの方がいらっしゃって、橋のことをいろいろ説明してくれました。めがね橋一つ作るのにも大変な労力がかかっていると思いますが、驚いたのは、横川から軽井沢までの鉄道を開通するのに、たった1年半でできてしまったことです。トンネルを掘るのもほとんど手彫りの時代、一日1万5千人もの人が働いていました。そのころ、岡山〜広島間の鉄道が開通し、その工事に携わった人々が、そのまま、動員されたそうです。
山の中の急勾配にトンネルを彫り、線路を造っていくのは気が遠くなる作業に違いありません。このめがね橋の美しさは、そのまま職人の人たちの努力を積み重ねたものだと思いました。
めがね橋は、70年後に新しい橋に後を譲って眠りにつきました。
けれど、この美しい橋が、このまま森に埋もれてしまうのは実にもったいない。ということで、「アプトの道」という遊歩道を作ったのですが、横川からめがね橋までの整備費で5億円もの費用がかかっているそうです。文化財の保存というのは、費用も労力もかかるものなのですね。
けれども、ボランティアガイドの人たちのお話を聞いていると、この廃線に対する愛情が伝わってきます。
♪秋の夕日に 照る山 もみじ〜 という「紅葉(もみじ)」の詩は、作者がこの信越本線碓氷峠から眺めた山々の紅葉の美しさに感動したものがきっかけとなって作ったそうです。
今度は、秋に訪れよう。
秋の楽しみが一つ増えました。
平安の頃、お花見といえば桜ではなく、梅だったそうです。
浅間山はまだ雪をかぶっているというのに、秋間梅林は、もう、梅が咲いているといいます。
去年、秋間梅林に行った時は、
「なんだかこの梅、香りがないねぇ」
なんて言いながら、花を見て歩いていました。
が、私達が梅だと思っていたのは、梨の花。
梅はとっくに散っていたのです。
今年こそは、梅を見たい!
と、いうことで、秋間梅林に出かけました。
目的地に近づくにつれ、山あいに、白い花をたくさんつけた梅林が現れました。
「今年はいい時期に来られたねぇ」
車から降りたとたんに、ほーほけきょ。
今年初のウグイスの声を聞いたのでした。
「うーん、まさに、梅にウグイスだなぁ」
平安時代の人達も、同じように梅にウグイスを体験して、春の訪れを喜んだにちがいないと思います。
日曜日ということもあって、秋間梅林は、老若男女、たくさんの人で賑わっていました。
おみやげ屋さんをひやかしていると、3年ものの梅干しがありました。
さっそく試食してみます。
うー、すっぱ。こめかみがきゅっとなったものの、後味が甘く、風味豊かで、奥行きのある酸っぱさです。
梅林の下では、何組もの家族連れが、お弁当を広げていました。
お花見と言っても、桜と梅では、ずいぶん様子が違うように感じます。
桜のお花見は、賑やかな感じがしますが、梅のお花見は静かな感じがするのです。
梅林を歩いているうちに、この違いは、木の高さに関係があるのではないかと思い至りました。
桜は、地面から花までに、人が立てるぐらいの高さがありますね。
梅は、タテよりもヨコ方向に広がっています。
腰のあたりに花があるので、梅の木の下でお花見をするには、花の下に入って、座り込む体制になります。
立ち上がると頭がつっかえるので、あまり動き回ることはありません。
見上げると、梅の花が、すぐ上に迫っている状態になりますね。
この天井の低さが、テントの中や、二段ベットにも似た、自分だけの空間に感じられて、なんだか落ち着くのです。
また、梅のごつごつした木肌や、曲がりながら広がる枝振りは、ご老人のような風情があります。
そういう梅の木に守られた空間にいると、陽の当たる縁側に、おじいちゃんと座っているような、のんびりした気持ちになるのです。
けれど、満開の桜というのは、盛り上げ上手な宴会部長のようなもので、桜の下では、ビールを飲まなきゃいけないような、賑やかに無礼講しなけりゃいけないような気分になるものです。
立ち上がる空間もあるので、つい、立ち上がってカラオケをしたり、お酌をして回る人が後を絶ちません。
その結果、桜の木の下では、サラリーマンがネクタイを頭に巻いたり、課長が女子社員に、デュエットを強制したり、ビールを飲み過ぎた人達がトイレの前に長い列をつくったりするのです。
私は、桜も大好きですが、梅の持つわびさびも、また捨てがたいものがあります。
秋間梅林は、来週が見頃です。
桜の下でビールと焼き鳥もいいですが、たまには、平安貴族風に、手弁当持って、梅を愛でに行ってはいかがでしょうか?